
はじめに
Audibleで聴きました。みんな大好き養老先生の「壁」シリーズです。
他の「壁」も同じですが、タイトルに「人生」とあるものの、
その内容は、養老先生のおしゃべりを編集して本の形に整えたもので、
特に人生に特化した内容ではありません。
と言っても、決して批判しているわけではなく、
オーディオブックで聴いていると、物知りの人生の先輩との雑談の中で
ありがたい知見を得るような、そんな気分にさせてくれる本です。
本書は「壁シリーズ」の第7作目で、2024年11月に発売されたものです。
87歳を迎えた著者が自身の人生経験を振り返りながら、
現代を生きる私たちに向けて語りかけています。(と言う体裁に編集者が整えています)
「子供の壁」「青年の壁」「世界の壁」「日本の壁」「政治の壁」「人生の壁」
という章立てで構成されていますが、中身はそれほど細分化されておらず、
章立ての意味をあまり感じませんでした。
これも養老先生が、物事を鳥瞰的に考えておられるからだと思います。
本にする都合で章立てしていますが、本一冊、と言うより養老先生の著書全てが実は大きな一冊で、
各本が章立ての一つと考えるくらいが丁度良いのではないでしょうか。
自分にとって居心地のいい状態を知っておく
養老先生が強調するのは「自分にとって居心地のいい状態を知っておく」ことの重要性です。
現代社会では、SNSなどで様々な社会問題に対して即座に反応し、感情的になりがちです。
しかし、社会問題について感情的になることは実は間違っていると指摘します。
実際に養老先生もほとんどSNSをご覧にならないそうです。
社会問題とは単なる事実であり、議論するにあたって感情を持ち込んでも解決にはなりません。
社会問題が解決しないのは、シンプルな解決法がないからで、
何らかの事情や理由があってそうなっているのです。
大事なのは日常生活の維持を意識すること。食事をする、体を動かす、普通に仕事をする…
こういった基本的なことを大切にしながら、
自分自身が心地よく過ごせる状態を作ることが最も重要だというのです。
厄介なことは学習の場である
次に印象的だったのは「厄介なことは学習の場である」という考え方です。
養老さんは中年になるまでにやっておいた方が良いこととして
「家を持つこと」を挙げています。
これは必ずしも結婚を勧めているわけではなく、何らかのコミュニティに所属し、
他人との繋がりがある場を持って生きることの重要性を説いているのです。
確かに家族や人間関係は厄介なものですが、
それらは人間や人間社会について学ぶ最小の単位でもあります。
面倒くさいことが全くない人生は、決して素晴らしいものではなく、
むしろつまらないものなのかもしれません。
厄介なことに関わっていくことで、人は成長し、より豊かな人生を送ることができるのです。
実際に、この厄介ごとが嫌でFIREしてしまった私にはとても耳の痛いお言葉です。
確かにFIREして厄介ごとからは解放されましたが、果たしてこの生き方が正しいのかは、
未だに疑問が残っています。
本書の中でも養老先生はFIREのような生き方は否定されておられました…。
運動すれば筋肉がつくのと同じように、
煩わしいことに立ち向かうことで人間としての「筋肉」が鍛えられるのでしょうか。
逃げるのではなく、向き合うことで得られる学びがあるというのは、
現代社会においても重要なメッセージといえるでしょう。
コスパやタイパばかり追求しない
現代社会では「コスパ」や「タイパ」という言葉に象徴されるように、
効率性が重視されています。
しかし、養老先生はそれらを第一に考えるのではなく、
「今日を精一杯生きること」「本気で生きること」の大切さを説いています。
全力を尽くすことや全精力を傾けることを、
まるで損をしているかのように捉える風潮に疑問を投げかけています。
もし全力を尽くせることがあるのならば、それはむしろありがたいことなのです。
養老先生自身も、依頼があった仕事はなるべく受けてきたそうです。
それは単に無理をしていたわけではなく、そこに何らかの生きがいを感じていたからです。
やってもうまくできるとは限らないけれど、
それでもできるだけのことはやる…そんな姿勢が大切なのではないでしょうか。
そのような考え方のおかげで、こうして養老先生のお言葉に触れられる事は
とてもありがたい事です。
生きる意味を過剰に考えすぎない
最後に印象的だったのは「生きる意味を過剰に考えすぎない」という視点です。
「人が生きる理由は何でしょうか」という問いに対して、
養老先生は「生きているからしょうがないじゃないか」としか言いようがないと述べています。
そういうことを考えるのは暇だからであり、何かを一生懸命にやっていれば、
そんなことを考える余裕はないのです。
別の養老先生の本の中で自死を考えている人に対して、
「いずれ死ぬのだから早まりなさるな」と呼びかけていたのを思い出しました。
現代社会では何にでも意味を求める傾向がありますが、
すべてのものに意味や説明ができると思うのは間違いなのかもしれません。
自然界においては、必ずしもすべてのものに「意味」があるわけではありません。
山に入って目にするものすべてに「存在する意味」を説明できるでしょうか?
養老さんは、もし生きる意味ばかり考えてしまうなら、
まずは何かに夢中になり、楽しめることを探すことを勧めています。
「意味」を考えること自体は間違いではないし、必要な事ですが、
それに捕らわれすぎないようにするのが大切なわけですね。
まとめ
本書を通じて養老先生が伝えたいのは、
物事に対してあまり考えすぎない、こだわりすぎないという姿勢かもしれません。
現代社会ではあらゆるものを明確に定義し、数値化しようとする傾向がありますが、
養老先生はそうした「曖昧さを許さない社会」の危険性を指摘しています。
日本社会が持っていた曖昧さを許容する文化の重要性を再評価し、
それが社会の柔軟性や適応力を高める可能性があることを示唆しています。
自分自身の心の置き場、心地よい場所を見つけ、日々を精一杯生きること…
そんなシンプルながらも深遠なメッセージが本書には込められているように感じました。
- 視野が広がり、生き方を見直すきっかけになる
- 教育・政治・経済など幅広い分野に触れられる
- 自己理解の深化、自省する習慣が得られる
- とくに人生に特化した内容ではないです
- 明確な結論を求める人には向かないかも?
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